家族の間にある「信頼」と「秘密」は、ときに思いもよらぬ形で交差します。どんなに順風満帆に見える暮らしの裏側にも、誰にも言えない葛藤や迷いが潜んでいることがあります。扉の向こうに隠された本当の気持ち――その先に待つ現実とは?
勝手に入るなといっただろ!〈月収150万円〉45歳エリート夫が高級賃貸の一室で〈必死で隠したもの〉…10歳年下の愛妻についた「悲しい嘘」 (※写真はイメージです/PIXTA)

夫がまさか…妻の胸に芽生えた小さな疑念

外資系企業で働く佐藤健太さん(仮名・45歳)。都心の高級マンションで、10歳年下の妻・由美さん(仮名)と、6歳のひとり息子と暮らしています。月収は150万円を超え、家族には何不自由ない暮らしをさせている――そんな自負がありました。

 

コロナ禍以降は、リモートワークが増え、担当しているプロジェクトによって異なりますが、今はリモートワークと出社のハイブリッド型。家にいることも多いですが、基本的に書斎に閉じこもって仕事をしています。

 

「仕事の重要な書類や機密情報があるから、絶対に入らないでくれ」

 

家族にはそう固く言い渡され、由美さんはその言葉を律儀に守ってきました。夫の仕事に対するプロ意識の表れだろうと、好意的に解釈していたのです。

 

しかし、ここ数ヵ月、夫の様子がどこかおかしいことに由美さんは気づいていました。以前は深夜帰宅や海外出張も多かったのに、最近はほとんど家にいます。担当するプロジェクトによって、リモートワークが増えたり減ったりはすすものの、「ほとんど毎日いる」ということはありませんでした。また休日も、付き合いのゴルフに行くでもなく、書斎にこもってパソコンに向かってばかりいます。

 

「最近、働き方改革も進んでいるから」。そう言って笑う夫の顔に、どこか貼り付けたような不自然さを感じずにはいられませんでした。

 

ある平日の昼下がり、健太さんが「少し散歩してくる」と出かけた後のことでした。いつもは固く閉ざされている書斎のドアが、わずかに開いていたのです。ほんの出来心でした。夫との約束を破ることに罪悪感を覚えながらも、日に日に募る不安が由美さんの背中を押しました。

 

「ちょっと掃除するだけ……」。そう自分に言い聞かせ、部屋に足を踏み入れた由美さんは息をのみます。パソコン画面には職務経歴書と履歴書。そして「希望年収」の欄に控えめな数字が書かれていました。

 

「転職でも考えているのかしら……でも何も言ってくれないし」

 

今の会社に不満があるのでしょうか。それとも、何かトラブルに巻き込まれたのでしょうか。いずれにせよ、健太さんには家族に秘密にしていることがあることは確実でした。