
憧れの田舎暮らし、退職金2,800万円で描いた「第二の人生」
会社員であれば、ほとんどの人が迎えるだろう定年。「その先の人生、できることならゆっくりしたい」というのが多くの人の思いでしょう。しかし60歳定年の場合、繰上げ受給をしない限り、年金を受け取れるようになるまで5年あり、この「無収入の5年」を作らないように、ほとんどの人が再雇用を選択。同じ会社で働き続けます。
雇用形態は正社員から契約社員や嘱託社員になることが多く、収入は3~5割ほど減少。役職者では7割減というケースも珍しくありません。仕事も現役社員のフォロー的立場にまわるケースが多く、モチベーションの低下が懸念されます。しかし何とか5年間を乗り切るために、「生きがい」「やりがい」という言葉と背を向けることを決断します。
しかし「限りある人生、そんな風に生きるのは嫌だった」と話す、斉藤健太郎さん(60歳・仮名)。都内のメーカーで部長職を務め、仕事一筋の人生を歩んできました。そんな健太郎さんの夢は田舎暮らし。趣味の家庭菜園を大きな畑で存分に楽しむ――そんな第二の人生の設計図を、妻の良子さん(58歳・仮名)とともに思い描いていたのです。
近年、地方移住を希望する人は増加の一途を辿っています。総務省によると、令和5年度、移住相談窓口等における相談受付件数は過去最多を記録。新型コロナウイルス感染症の5類感染症への移行による、全国的な地方移住への関心の高まりや、移住支援に関する助成制度の新設や増額などの経済的支援の拡充などが要因として考えられます。
そんな夢を、夢のままで終わらせるか、それとも実現するか――健太郎さんが出した答えは「夢を夢で終わらせない」という選択でした。定年で田舎暮らしを始めたら、収入は月65万円からゼロになります。「再雇用を選んだとしても、収入は半分以下になります。ゼロになっても変わりませんよ」と健太郎さん。年金を受け取れるようになるまで5年ありますが、「退職金があるから、何とかなります」と健太郎さん。定年を機に受け取る退職金は3,000万円、手取りにすると、2,800万~2,900万円程度。仮に5年で使い切る計算でも1年で500万円以上。金銭的には余裕に思えました。
こうして移住先に選んだのは長野県。長野市から1時間半ほどの温泉郷に、400万円の中古戸建てを購入。都内であれば、10軒は家が建つんじゃないかと思うくらい広大な庭に、温泉が引き込まれたお風呂が決め手だったそうです。移住後の生活は理想的な滑り出しを見せました。鳥のさえずりで目を覚まし、庭で土をいじる毎日は、時間に追われ続けた会社員時代では考えられないほど穏やかなものでした。