
ヘッドハンティングのアプローチは多種多様
ヘッドハンティングビジネスを手掛ける弊社では、年間平均で4〜5件ほど、ある種“定番”ともいえるエピソードが発生します。それは、スカウトの最中、ターゲットが在籍する企業の社長から怒りの電話が入るというケースです。
私どもは、ヘッドハンティングの対象となり得る人材を慎重に調査したうえで、さまざまな方法を用いて接触を試みます。以前も少し触れましたが、もっともオーソドックスなアプローチはメール連絡です。多くの場合は勤務先のメールアドレスですが、紹介者経由で得た情報をもとに、プライベートアドレスへご連絡差し上げることもあります。
さらに、携帯電話や自宅の固定電話にご連絡することもありますし、場合によっては勤務先の前で直接お声がけする、というストレートなアプローチも検討されます。
会社を通すことで起こるトラブル
今回のテーマ「職業選択の自由と企業側の権利」にも関係しますが、私たちはヘッドハンティングの際、極力、ターゲットの周囲に波風を立てないように配慮しています。たとえば、丁寧なお手紙をしたためて、所属企業あてに送る場合もあります。
ところが、とくに中小・零細企業では、社長が個人あての郵便物やメールをすべてチェックしている場合があり、親展や私信であっても開封されるケースが少なくありません。そして、そこにスカウトの連絡が含まれていようものなら、怒り心頭の電話が私どもにかかってくる、というわけです。
実際、ごく最近もそうした事例がありました。最初は決まって押し問答になります。社長の怒りの大半は、「勝手にうちの社員に連絡するとは何ごとだ」「違法行為ではないか」といったもの。中には、機関銃のような罵声が1時間近く続くこともあります。
とはいえ、たいていは30分ほど経つと、「従業員の職業選択の自由を否定するつもりはないんだが……」といった言葉が出てくるなど、次第にトーンも落ち着いてきます。
結局のところ、法的な問題というよりは、大切な従業員がスカウトによって転職してしまうかもしれないという不安から来る感情的な反応なのでしょう。人手不足で代替人員の確保が難しい状況では、焦りや怒り、動揺、悲しみが一気に噴き出すのも理解できなくはありません。
こうした状況に接するたび、私どもとしても経営者の苦労を察し、同情してしまうこともあります。もちろん、論理的に話を進めて説得・説明することは可能ですが、経営者の立場に立って、できる限り丁寧にお詫びするよう指導しています。
とはいえ、謝罪といっても責任を認めるわけではありません。多くの場合は、「このたびはご迷惑をおかけしました。今後は連絡いたしません」といった一言で、事態は収束に向かいます。